前回の アメリカ大統領選とBorn in the USAから民主主義を考える のつづきです。
巨額の広告費を使ったオバマ選挙は08年のマーケティング大賞に輝き、
「チェンジ」という商品で夢をみせられた人々は、
その後献金リストの上位にいた業界寄りの政策が実施されるたびに
「夢」と「現実」のギャップに困惑した。
オバマ政権下で過去最大となった軍事費のしわ寄せで
社会保障費は削減され、国民の生活は疲弊し続けている。
公共サービスは売却され、失業率は実質17%、
7人に一人が食糧配給切符で食いつなぎ、
失業と医療費、住宅の差し押さえなどが占める個人破産は160万人を超えた。
~堤未果 毎日新聞掲載の記事(2010.11.19)より
ちなみに、なぜか日本でも「オバマさん」と「さん」づけで呼ばれるオバマ大統領。
レーガンさん、ブッシュさん、クリントンさん、いずれも聞いたことがないのですが、そこはやはり「オバマさん」のマーケティング効果なのでしょうか。(日本人政治家は偉い人ほどさんづけで呼ばれる??)
就任後のオバマ大統領の勢いはとどまるところを知らず、アフガン、イラクの2つの戦争を遂行しながら「核なき世界」のフレーズ一発で再びミリオンセラー、ノーベル平和賞を受賞するという離れ業もやってのけて見せました。この天才的マーケティング戦略がオバマその人から発しているのか、所属事務所の敏腕マネージャーによるものかは謎に包まれています。
その後、核軍縮は何らの進展も見せず、戦争とテロは拡大の一途をたどります。就任当初はマーケティングの力で絶大な支持基盤を得たものの、歌唱力とパフォーマンス、有言不実行への失望から人気に陰りが見えたタイミングで発生した「ビン・ラディン殺害」事件。証拠の遺体すら存在しないという、すべてが謎に包まれたまま、報道が世界を駆け巡り、人気回復を果たしました。
国民は、何をもって判断しているのでしょうか。
日本では、小泉元総理が「自民党をぶっ壊す」「聖域なき構造改革」「感動した」などの強烈なリフレインで大衆の心を鷲掴み、圧倒的な支持を誇りました。
代議制「民主主義」は、実際には大衆をどう動かすかで決まってくるようです。そして、それには理にかなった丁寧な説明よりも、理屈は抜きに、単純明快なリフレインの方が圧倒的に効果がある。
そして根本的な問題は、昔ルソーが指摘している頃から変わっていないようです。
「イギリスの人民は自由だと思っているが、それは大まちがいだ。彼らが自由なのは議員を選挙する間だけで、選挙が終われば、奴隷となり、無に帰してしまう。」
ジャン・ジャック・ルソー
実際、通常ほとんどの人は選挙のときだけ市民としてふるまい、あとは代表に任せきり、です。
そして選挙の時もかくも簡単に操作されてしまうわけなので、選挙の時も私たちは果たして本当に自由に行動しているのかと首をかしげたくもなります。
トランプとクリントン、どちらが大統領となってもこの戦争拡大路線が続くことは明白です。
しかもアメリカの戦争は「自衛」と言いながら自国ではなく遠く離れた他国で行われます。それによってテロの恐怖をもたらしているというサイクルを益々拡大させますよ、ということが予めわかっているのが今の状況。
アメリカ国民にとってほとんど存在すらしていない候補者である緑の党のジル・シュタイン氏は、軍事費50%以上削減、侵略戦争の停止、700以上ある在外米軍基地からの撤退、浮いた財源をグリーン・ニューディール政策による雇用拡大や福祉の充実にあてることを明言しています。
さらにはイスラエル、エジプトなど人権侵害の酷い国々への支援を停止、テロ支援に使われている口座の凍結、資金源を断つことを掲げています。
テロ、増え続ける難民、世界中に広がる戦争の問題に欧州で怖れを抱いていない人間はいないはずです。これまでのアメリカが変わるということは二大政党以外が政権をとらない限りはあり得ないのではないでしょうか。ところが、大統領選挙のニュースではトランプとクリントンのことばかりが報道され、支持率が圧倒的に低いシュタイン氏の存在はまったくと言ってよいほど取り上げられません。
先日始まった大統領候補による討論会は全米にテレビ中継され、大統領選に絶大な影響力を持つと言われています。先日の第1回目のディベートに登場したのはご存知の通りトランプとクリントンの2人だけ。他の候補者は参加を許されず、開催地の大学を訪れて参加を訴えたシュタイン氏は警察によって排除されました。この討論会には、15%以上の支持基盤がある候補者だけが参加を許されています。これは、実際には二大政党制の堅持、第三政党の排除を目的とした基準のようです。
次回はこのディベートを主催する団体について簡単に書きます。
ASOBO! 山片
[…] 前回の記事 アメリカ大統領選とBorn in the USAから民主主義を考える2の続きです。 […]