通訳というお仕事 4

今回初めて経験する、1ヶ月以上にも及ぶ長い間、クライアントさんに付きっきりとなる通訳。そこで「通訳とは何?」という3つのブログで勝手なゴタクを並べてみました。

でも今回、その内容の正しさを自ら証明するようなことが起こりましたので、今回追加でその4です。
既にいい年こいているせいか(笑)、さすがに中途採用のお誘いはありませんでしたが、それよりもっと嬉しいお話です。

その会社の「会社案内を作ってもらえないだろうか?」 とか、製品を「今後ヨーロッパで宣伝して貰えないだろうか? 」 という打診です。その製品(装置) はかなり優れものなのに、ヨーロッパではまだ未開拓。こんなにやりがいのあるお仕事はありません。

ちょっと失礼かと思いましたが、通訳期間中も本業をこなせばならず、しかも片田舎のホテル。何と部屋でメールのやりとりができないので、朝食・夕食中にパソコンで仕事をしていました。その様子を見たクライアントさんが、私の仕事がウェブサイトに関するものが多いことが分かった結果でした。
さて、さすがに億の単位の金額となる装置だからか、最後の詰めにその会社の社長さんが日本からやって来ました。長い期間の間、専門分野の違うスタッフが何人も日本から来ては去って交代したのですが、技術のバックグラウンドを持つ営業部長さんがプロジェクトリーダーとして最初から最後まで滞在しましたが、その人と社長さんに私の仕事の流儀が気に入られたようです。
日本のその会社の名はTECHNO。最初に来たチームのひとりが「通訳のブログ1」を読んで下さり気に入られ、宣伝のために是非会社名を明かして欲しいとリクエストされました。
今回の通訳の依頼元はTECHNOではなく、ドイツ側の購入元、つまりお客さんで、あるドイツ一流大企業ですが、そちらの会社名の方は㊙︎です。
TECHNOはその産業で日本を代表する優れ企業のひとつ。大手大企業の製品を取りまとめて設計し、ひとつのミニプラントに仕上げます。設計に特化した、山椒は小粒でピリリと辛い頭脳集約型集団です。
ちなみに私がTECHNOの人にミニプラントというと、「それは大袈裟ですよ」と言われましたが、決してそんなことはないと思います(詳しくはその1)。その装置のためにわざわざ新しい工場がひとつ用意されるのですから。
そのものズバリは書けないものの、それはアルミ合金の金型などの鋳造物を作る機械・装置です。自動車産業においてここしばらく、アルミ合金が次々と鉄に取って代わって車体を軽く、燃費を良くしてきました。
今までは鉄で出来ていたものが、次々とアルミ合金に変わりました。例えば車のエンジン。昔は鉄で出来ていましたが、今日のエンジンは見た目がきれいなアルミ合金で出来ています。TECHNOでは車のシリンダーヘッド(エンジンの上部)のような車の心臓部の一部を作る機械も作っています。
車産業は、信頼性の高い製品しか通用しないことで有名です。不良率をゼロにすることは事実上不可能でも、欲を言えば百万個に一個などという限りなくゼロに近いレベルが求められます。
その割には今日の車は電気・電子系統でしょっちゅう故障しますが、それでも命を運ぶ物なので、高い製品信頼性はとても重要です。
さて今回、依頼元と私の間に2つの仲介社・者が存在していました。元々の依頼主であるドイツのメーカーが見つけたドイツ系(?)の通訳・翻訳事務所では適任がいないようで、別な通訳・翻訳事務所に横依頼となり、そこでも派遣できる通訳がいないようで日本商工会議所を通じて私にお話が来ました。
最初の仲介社は大手なのか、毎日出勤証明書を出す義務があるとか、必ず安全靴を用意するとかなど、ちょっとうるさかったので、私の方でそんな面倒なことはなくしてしまえとひとひねり工夫しました。
安全靴に関しては、今回の私のお仕事でのその必要性は、飛行機は落ちるけど乗る、落ちるから乗らないのレベルなので、「安全靴無しでもし何か事故が起きた時はあくまでも自己責任」という自分で書いて用意した一筆で免れました。
ましてや私は超足汗っかき(=足臭・笑)。安全靴など履いた日には、蒸れて蒸れて大変です。蒸れて足が腐っちゃいそうです(笑)。そこで慣れた穴あきの靴を履いて行ったのですが、依頼元のドイツ企業が、「それならうちで穴開きの安全靴を探して支給してやる」とまで言ってくれましたが、そういうものは見つからないのか、最後は結局そのままうやむや...笑。
毎日の出勤証明書は、毎日毎日同じ時間なのでバカバカしく、一週間分を一枚にまとめてしまいました。そこに依頼元のサインが入るので、毎日ではなく週イチでも仲介社も文句を言えません。

そのような両者にとって不要極まる仕事を生む儀式的、官僚主義的な仕事はなるべく省いた方がお互いのためになります。
そして毎日の時間だけを管理する無味乾燥なスペースだらけのA4用紙に、「これこそが必要なものだろ!」と、通訳のお仕事に関する依頼元の満足度を自分の手書きで書き足しました。
つまり、クライアントの満足度を下記のように段階で分けて、当てはまるところに印を付けてもらう方法です。
とても良い

良い

普通

イマイチ

全然ダメ

それをそっと依頼元に渡しました。依頼主は「ニヤッ」と笑いながら「とても良い」に印を付けてくれ、ご丁寧にその下にサインまで入れてくれました。ちなみに通訳の時の身なりについてですが、通訳をするのにスーツをビシッと決めてくる人がいますが、私は普段のカジュアルウェアーそのままです。
スーツにネクタイだと、確かにビシッとして良い第一印象を与えることができますが、今回のような長丁場だと、例えば下手な通訳を身なりでカバーすることはできません(それでもお勧めはスーツにネクタイです/笑)。
通訳の実力が高いか低いかは、長い期間の間にどうせバレるのですから(笑)。それにスーツとネクタイはビシッと見える代わりに固苦しくなります。そこへいくとカジュアルウェアは親しみ感が出ます。但しだらしのない格好は勿論ご法度です。

今回の通訳でもつくづく思ったのが、「言いたい欲」というものが、スムーズなコミュニケーションをどうしてもかなり邪魔していることです。
前のブログでも既に似た内容を書きましたが、情報の発信者が必ずしも本当に伝えなければいけないことを簡潔に表現するとは限りません。
誰でも「言いたい欲」に支配された表現をすることが多々あります。お互いに慣れてくればくるほどそうなります。
世の中には必要最低限のことしか言わない人もいれば、自分が考えていることを全て言わなければ気が済まない人もいます。情報発信者が通訳を介して情報受信者に伝える必要がある情報量が例えば10しかない時に、20も30も喋る人はよくいます。「言いたい欲」に縛られている人もいます。
もし①(*)を行っていると、それを全て伝えることになりますが、それでは効率が悪すぎます。と言うか、時間と労力の無駄です。
* 「その2」に説明あり
あるいは通訳の途中で受信者から遮られたり、送信者が話している最中に受信者もいきなり話し始めてしまうこともあります。
ビジネスモードに慣れていない人は、質問の答えとして求められているものがYESあるいはNOにもかかわらず、長い説明や言い訳(?)をする時があります。
「どうして?」と聞きもしないのに、「なぜなら…」と始まるのも困りますが、その辺の話の交通整理をするのも通訳の務めです。だから①ではダメなのです。
そういう意味では、頭の良い人がコミュニケーションが上手いとは限りません。その時の頭の良いの定義は、学校の成績が良い(学業ができる)、つまり博学ですが、そういう頭の良い人でも(自己)欲に支配されてしまっている人は、伝えなくてはいけないことではなくて、言いたいことを表現します。そこで通訳は、言いたいことではなくて、伝えなければならないことを伝えます。
笑顔も欠かせません。相手の緊張がほぐれるからです。通訳は、伝達すべき様々な内容を上手くまとめて表現という形にして情報の受信者に伝えなければなりません。そしてそこでも今度は通訳の「言いたい欲」も頭をもたげてきます。勿論それも抑えなければなりません。

ドイツ(西欧)は自己主張が幅を利かせたサービス砂漠の国。最高のサービスが当たり前で、それに慣れている日本人にとっては、ついつい「イラっ」と来てしまうことがよくあります。そこでも通訳の腕が問われます。
日本側に、「使えね~な~、この通訳」と勘違いされないように、尚且つドイツ側に「この通訳うるせ~な~」と嫌われないように中立ダンパーの役目をするにはかなりの気配りが必要です。

通訳する両者の事情が見えてくればくるほど、通訳が両者の間でことを一番理解しているのですから、両者にドンドン提案することさえ出来るのがビジネス通訳の務めです。
例えば今回も予期せぬハプニングがありました。制御盤の一ヶ所に、電流容量が不十分な制御スイッチが使用されていて、それがパンクして小さな爆発音と共に計4つのスイッチが飛んでしまいました。
高電流が流れているその制御盤の前に丁度数人集まっている時でした。人体には何の影響もない不幸中の幸いでしたが、お客さんは勿論不安になります。「今後一体大丈夫だろうか?」
さすがは技術集団。容量不足の部品が原因なのは、回路をチェックしてすぐに見つけましたが、では何でそんな部品が使われたのか。設計ミス?

話を聞けば今回は、その制御盤を用意したのは国内やアジアで馴染みのあるいつもの制御盤メーカーではなく、ヨーロッパに強いはずである今回初の取引先で、こんな爆発音を伴うショートなどは会社始まって以来の珍事とのこと。
でも日本側はそれをドイツ側に伝えようとしません。容量不足の部品が見つかり、それがショートの原因であるというところまでしか…
それでは不十分です。相手は心配したままであることが誰にも予想できるのに…
そこでその背景まで説明することを提案、説得してお客さんに伝えることになりました。そしてそれは相手をある程度安心させて成功でした。やはり大事なことは、① よりも② ですが、さらには両者を上手く取りまとめようという意志です。両者の話の流れも雰囲気も、通訳の訳、表現次第で良くも悪くもなります。つまり通訳の腕次第で、良いミーティングも悪いミーティングになり、その逆も可能なわけです。
ところで偶然にも今回のお仕事中に読もうと持って行った数冊の本の中に、第二次世界大戦時の通訳のお話が出ていました。「外務省の罪を問う」(自由社、杉原誠四郎著) という本です。
あの真珠湾攻撃の時に、日本の本国から在米日本大使館を通しての宣戦布告を伝えるための情報が遅れて攻撃開始の後になってしまい、「日本人は卑怯だ!」とアメリカ人にあの有名な「リメンバー・パールハーバー」という憎しみを与えてしまいました。

その日の前日、本国から「大事なことがあるので万端の準備で待機せよ」という指示があったにもかかわらず、その情報を唯一タイピングできる人が前夜に遊びに行ってしまい、内容が内容なので現地のスタッフにはタイピングさせられなかったので遅れたというのがその理由だったそうです。

そしてその人は何とその後、お咎めを受けるどころか出世して、終戦のマッカーサーと昭和天皇の会談などで通訳を続けたそうです。どうしてそんな人が出世してそんな大事な通訳を任されるのでしょうか…

さらにその時の緊急体制を整えなかった参事官も、その後外務次官となったばかりか、1951年サンフランシスコ講和條約に列席したそうなのです。
その時の大使館の責任者、特命全権大使はその遅れを悔いて自殺してしまうのではないかと周りから心配され、その時の駐在武官が2人交代でその夜の警備に当たったそうですが、本人はその時に「なぜ自殺しなければならないのか、私は外交官である」と言ったそうです。
その本では、宣戦布告が遅れずに攻撃開始前に間に合っていたら、アメリカ側のあれほどひどい憎しみの「リメンバー・パールハーバー」にはならず、「ひょっとしたら原爆の投下にもつながらなかったのではないか?」と書いています。

なぜなら原爆を落とした後のアメリカ大統領の声明が、「これで日本はパールハーバーの何倍もの報いを受けた…」というような内容だったからだそうです。
それほどひどいミスを起こした三人がその後お咎めを受けるどころか出世し続けたのは、吉田首相が当時その事実を隠そうしたからだと糾弾しています。
何かの批判を聞く、あるいは読む時に一番注意をしなければいけないのは、批判されている方の意見も聞かなければいけないことです。そうしないと公平に判断できません。
人はよく、仲違いしているある2人の内の1人だけから話を聞いてその人の味方についてしまいますが、もう一方からも話を聞いたみると、真実は意外と違うところにあったりします。
よってその本をどの位まで信じて良いのかは分かりませんが、述べられている事実は残っているのかも知れません。この著者はその方面でかなり多くの本を出しているようです。
いずれにしてもこの著者がひとつとても良いことをしていると思うのは、自虐史観に縛られない正しい近代史を書いた教科書を出していることです。
通訳と言うお仕事、勉強させてもらえてお金をもらえ、優秀で素晴らしい人たちと出会える本当に最高のお仕事です。

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川崎英一郎

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カテゴリー: ドイツの暮らし, ビジネス

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