理想の通訳とは空気の存在 (通訳という、とても楽しいお仕事 その3)

通訳のお仕事は、言葉の通じない話し手と聞き手の間に入り、人間にとって空気、水、食料の次くらいに大事なコミュニケーションを、その都度いかにパーフェクトに完成させるかがその醍醐味ですが、その時に両者の邪魔にならないように注意します。

たとえば会議室の通訳ではなく、工場などの現場での通訳、それも単なる見学ではなく機械設置の立ち会いなどになると、各人に複雑な動きが出るので、そこではまるで相撲の行司やサッカーの審判の様な動きが要求されます。

つまり、情報の発信者である話し手も、受信者の聞き手も、しょっちゅう動いて立ち位置を変えます。

通訳はその都度それに合わせて自分の立ち位置を、話し手の話をよく聞けて、尚且つそれを聞き手に伝えやすい所に持っていく必要があります。

「通訳さん、ちょっとここに来て!」などと話し手や聞き手に言われてはもう通訳失格です。

話し手が話している時も、聞き手が聞いている時も、相手がどういう表情をしているかを知ることは、相手の気持ちを知るためにとても大切なので、両者のアイコンタクトは欠かせません。

よって通訳の立ち位置は、話し手と聞き手の邪魔になる位置は勿論御法度です。

力士が行司の存在、プレーヤーが審判の存在に気がつかないくらいが理想的です。理想は、両者の間に入ったやや後ろです。

でも人間の耳は、主に前から来る音用に作られているので、やや大き目な声が必要です。

では総合的に理想的な通訳とはどういうものでしょうか? 総合的に理想な通訳の存在とは実は空気のような存在なのです。

話し手と聞き手が、お互いの言葉がまるで通じているかのような勘違いを起こすほどになり、通訳の存在が忘れられればベストな通訳です。

ということはどういう事でしょうか? それは通訳が話し手と聞き手それぞれの頭になってしまう事です。両者の頭の中をいかに理解出来るか次第で通訳の腕が決まります。

その場で現れる表現を単に訳すだけなのは、2流の通訳だと思います。

1流の通訳は、話し手が表現する事を聞き手に伝えるのではなく、話し手が聞き手に伝えたい事を理解して(欲を言えば察して) 伝える事です。

それが「通訳というお仕事の醍醐味 2」に出てくる①と②の違いです。

では両者の頭になるにはどうしたら良いでしょうか? それにはなるべく多く相手に接して、より相手を理解するしかありません。

理解すればする程、①の通訳が不要になります。

どういうことかと言うと、少し大袈裟に言うと、話し手の質問が出る前に、何を質問したいかが分かってしまいます。

そして聞き手がどう答えるかも前もって分かってしまいます。

あなたを一番理解しているのは誰でしょうか? 家族や親友です。

家族や親友なら言わずして理解していることが多々あります。阿吽の呼吸です。

例として良い夫婦の関係は、お互いに空気のような存在と言いますが、通訳も同じように普段その存在に気付かれないほど仕事がスムーズに進み、イザ通訳がいなくなって初めてその存在の価値が分かるというのが最高です。

通訳もそこまでのレベルに行くと、現場を仕切ることまでできてしまいます。両者をどちらも把握して進行を進める役になるからです。

送信側は、送信側のことを100%理解しているとして、受信側の事情を仮に10%理解しているとすれば合わせて110%。受信側はその反対で受信側の事情を100%分かっていても、発信側の事情は例えば10%理解していればこれもやはり合計110%。ところが通訳は、仮に両者のことをそれぞれ80%づつしか理解していなくても、両方合わせて160%理解していることになります。

今回日本から出張して来ている部隊も決して余裕を持った人数で編成されているわけではありません。

最初は(良く言えば)通訳さんに仕事を手伝わせたら悪いから、(悪く言えば)通訳さんにできっこないから…😅と、仕事を手伝わせてはもらうことは出来ませんが、数日間一緒にいて、「おっ、この通訳さん、なかなか気が利くで〜」ということにれば話は別😄。

仕事のお手伝いもできるようになり、さらにはその内に頼られて、「ちょっと、すんません…」などと言われるようになったらもうしめたものです😄。

そこまでやるのが真の通訳の務めだと思うのですが、世の中実際にはそうはいきません。でもそこまでやると、見ている人はいるもので、色々と嬉しいお声がかかります😄。

①の場合は、表現されていることだけを訳します。つまり表面的ですが、②は相手が何を考えているのかを理解して伝える必要があります。

基本的には安心を伝えることを優先し、心配、不要な通訳はしないことにより余計な心配と無駄を省きます。

でもそれは、「後々に大きな問題となってしまうかもしれないトラブルの種を伝えないので危険なのでは?」とは全く違います。

後々トラブルになる可能性のありそうなことは勿論伝えます。伝えないのは、話し手の独り言に近いような心配ごとです。

そういうことまで伝えて相手に要らぬ心配、揉め事に発展させる必要は無いどころか、むしろ避けたいからです。

その辺の違いがよく分からない人はコミュニケーションが下手だと考えられるので通訳には向かないと言えます。

自分が分からないことがあったら分かるまで何度も言葉を変えて質問してみます。そこで時間を優先し、はしょってしまうと後で後悔するかもしれません。

通訳も人間です。全ての会話をパーフェクトに通訳できる人などいません。時には「何度も聞き返してきてこの通訳さん大丈夫?」と思われそうでも、通訳の内容の正確さを優先します。

聞くはその場の恥、聞かぬは一生の恥と言いますが、通訳に必要なプライオリティーナンバーワンは何と言っても正確さで、早さはナンバーツーですが、その正確さも①の方ではなくて②の方です。そして通訳の早さも②から生まれます。

そう言えば30年以上前、初めて通訳のアルバイトをした時です。人数が多いので、2人の通訳が雇われました。私ともう1人はドイツ人と結婚した日本人女性でした。

2人を代表して私がまとめて訳していたある一場面、日本人の話し手の内容が複雑で、それをドイツ語にするのに手こずったシーンがありました。

後でその女性から、「川崎さん、ああいう時は適当に訳しちゃえばいいのよ(誰も分からないんだから)。」と言われました。本気で言ったのか、私の緊張(?)をほぐすために言ったのか、どちらか分かりません😅。

その頃の私はまだ①の通訳を行っていた上に、典型的な日本人として、ドイツ語で発言するのに「もし文法が間違っていたら嫌だ」と思っていたのは間違いありません。

難しいのは、ビジネス上の通訳では多くの場合において両者の間で利害関係があるので、費用と責任がどちら側の負担になるかというシーンが出てきます。

そういう場面で、その時の都合によって動物側に付いたり、鳥側に付いたりするコウモリの存在になってしまうのは最低です。それでは自分の首を絞めるだけです。

ところで今回のミニプラントの設置中、

「タップ、M6ちゃう?」(関西弁・笑)
「mit Drehmoment..?」
「neue Scheibe für Flex!」
「色はRALの何番…」

「ノギス」、「(電気の)Drehmoment」、「ライナー」、「Niet」、「タップを切る」、「Federring」…

などなど、機械や電気関係の専門用語が当然のごとく多く出てきました。アナコンダという、その会社特有の専門用語まで出てきました😄。

手前味噌になってしまいますが、若い頃にラジオを組み立てたり、ツーサイクルのオートバイならエンジンの改造したり、工作機械や電気製品の業界で開発にも少し関わる仕事をしていたので、そういうことならそれこそお手の物(笑)。

今回も、まるで水を得た魚のように通訳できています😄。しかも今回は複雑そうなミニプラントなので、自分にとって興味津々で楽しくて仕方がないほどです😅。それでもソクラテスではありませんが、知れば知るほどいかに自分が無知かと気が付きます😰。

通訳のお仕事も、実はとどのつまりは気配りです。気配りといえば、世界は広しと言えども日本人の右に出る民族はいません。

そうなのです、日本人の通訳は世界一なのです😄。

気配りといえば、両者に密着していると、いろいろな追加情報を得られます。

その中で、両者の間がより良くなると思われる情報を、通訳の必要がない場面にて両者に伝えるのも通訳の努めと心得ます。

情報は、開示すればする程好転するように世の中はできているようだからです。

今回大変なのは、設置の最中は通訳が不要な時間帯があることです。皆さん一生懸命働いていますが、通訳が不要で私には暇な時間帯があります。

つまりそういう時は仕事時間ではなくて単なる拘束時間で超暇😅。

さてそういう時はどうしたら良いか…

まずは掃除です。掃除し尽くしたらウロウロ歩き。

檻の中のクマやライオンのように行ったり来たりと歩きます。

立ったままや座って待つのは不健康だと「進化が示す健康法則」に書いてあります。歩いて進化して出来上がった身体。歩くのが身体に一番です。

こんな良い本を書いたのは一体誰でしょうか😅。

掃除に関しては、現場は常に汚れがち。荷を解いた縄などが落ちていますが、ずっとそこに置いてあれば足を引っ掛けたりして転んでしまうことがあります。

現場での誇りやゴミは溜まりがち。当事者たちは設置に忙しくて、掃除は二の次になります。その掃除を進んで行うのです。

何しろ私は「ドイツをきれいにする会」の(暫定)代表😄。掃除ならお手の物。

掃除をして身体を動かすことは、自分の身体のためにもなります😄。

色々と御託を並べましたが、これはあくまでも単なる私見です。独りよがりに過ぎないかも知れません。

通訳の仕事とは①の方が正しいと主張する人も、ひょっとしたらいるかもしれません。

では最終的に何を目指すか。それはやはりCSです。お客様が喜んでくれたかどうか。

お金を出すのはお客様。こちらがどんなに良い(と思う)ことを考えても、お客様が不満ならもうアウト。

お金を出したお客様が、出したお金よりも受け取ったものの方が大きいと感じてもらえれば大成功です。

お客様に「いや〜、あなたのお陰で仕事がとてもはかどった。次回も是非お願いしたい」と言っていただけたらこれほど嬉しいことはありませんが、それが最終目標です。

そして時には、「うちに来て(就職勤務して)もらえないだろうか?」などと言われることがあれば、これはもう間違いなく合格点。

時には通訳の依頼主会社の社長さんが自分で出張して来る時などがあります。

その社長さんについて回る時など、通訳他のお仕事が素晴らしいと、その会社がドイツに進出して来るような時に、そういうお誘いの声がかかることは、実際によくあることです。

そんな時は勿論単に①の通訳をしていただけでは不十分。通訳として付いて回る道中で、常に神経を張り詰めて「これでもか!これでもか!」と先回りをして気を利かせます😄。

そういうお声をかけていただくようなことがあれば、それはもう通訳冥利に尽きるというものです。

さて私、今回のように自分に興味があるお仕事だと破格の通訳費用で引き受けてしまいます😅。

特に得意な分野は機械関係。そしてエレクトロニクス、食品、医療、法律、経営などなど。

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川崎英一郎

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カテゴリー: ドイツの暮らし, ビジネス
理想の通訳とは空気の存在 (通訳という、とても楽しいお仕事 その3)」への1件のコメント
  1. 佐藤庸子 より:

    日本の通訳は世界一ですか・・・。通訳ではなく、「ガイド」等々は国家資格で、ものすごい
    物を知っているなあ、と舌を巻くこともたびたびです。京都の大学を出て、個人タクシー(これも変わっているけど)をやっている男性は歴史の教師顔負けで、英国やアメリカから来る客を
    タクシーに乗せて運転しながら通訳してました。京都は国際的学会も多く、そこでは専門的な分野も求められるようですが・・・・。難しいですよね。京都で毎年行われている「地球温暖化」なんて
    学者並みの専門用語をきちんと把握し理解していないとダメらしいですし。

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