通訳という、素晴らしいお仕事の醍醐味 1

前回の通訳のお仕事は、劇物を入れる巨大な容器を製造するドイツのメーカーと、そのメーカーを訪問する日本の会社の間に入って行うコミュニケーションでした。

劇物をいかに安全に扱うかという容器なので、それだけで最初から興味津々でしたが、日本側がお客さんであるということにも興味が湧きました。

なぜなら、多くの分野で日本の技術はトップを走っているからです。「へ〜、その分野では日本はまだドイツにかなわないんだ〜」といった単純な理由です。

蓋を開けてみてびっくり。日本にはそういうメーカーがゼロ。そうなるともう海外から買うしかありません。同じ物を作れる会社が世界に僅か数社。ドイツには2社もありました。さすが日本が明治時代に先生の1人とした国。

優れた製品で、「この会社のこれ!」と指定買いをするお客さんを世界中に持つ日本のメーカーなら枚挙にいとまがありませんが、「その逆みたいなケースもあるんだ!」というわけです。

日本の職人さんが優れているのはよく知っていましたが、分野によってはドイツの方が上という事実が今回良く分かりました。

それは鉛の加工技術の職人さんです。鉛は金属の中でも火に弱い代わりに、放射線などに強いのは知られています。バーナーの火を当てて鉛を加工するのですが、優れた職人さんはそれを天井、顔の上でやってのけてしまいます。

鉛はバーナーの火を当てると溶けて液体状になります。液体状にするから加工できるのですが、それを顔の上で行って、もし熱くし過ぎてサラサラの液体状にまでしてしまうと顔の上に溶けた熱い鉛が垂れてしまいます。

日本から来た訪問者側曰く、日本にはそれができる職人さんは今1人しかいないそうです。昔はもう少しいたようです。日本の職人さんが危ないという憂いはどうやら本当のようです。

そういう職人さんがそのメーカーに3人いて、ドイツに2社あるもう一方の同業者にも3人いるとすれば、少なくとも6人はいることになります。

日本にはそういうメーカーがなくても1人いるのだから、ドイツにももう少しいそうです。素晴らしきドイツの職人技。

今回はいつものように日本からドイツへの輸出です。ある物を作る機械装置なので、ミニプラントと呼べるでしょうか。

産業の中でも特に大物業界である自動車産業。あるドイツの有名なメーカーから、これまたある日本の中小企業が作る優秀な製造装置が選ばれました。

驚いたのはその日本のメーカーの規模。僅か50人です。納める装置は車の主要な部分をゼロから完成品にまで仕上げてしまうミニプラント。

そう言っては大変失礼ですが、僅か50人しかいない会社にどうしてそんな複雑なミニプラントを作れるノウハウの蓄積があるのでしょうか。

聞いてみてそのカラクリが分かりました。その会社には、その装置を何から何まで全て1社で作り上げてしまうノウハウがあるのではなく、その装置で作る製品を作り上げるために何が必要かのノウハウが詰まっているのです。

それはうちの会社で2006年に成功した身分証明書鑑別機のケースと似たところがあります。それはタバコ自販機業界で、最初は16歳、その後法律が変わって18歳と、喫煙が許されていない未成年のタバコ購入を防ぐための装置でした。

手前味噌になってしまいますが、その時僅か3、4人の会社が13億円くらいの年商を上げてしまいました。年商3〜4億円/人というのは少し自慢しても良い数字です(笑)。

一言で表現すれば、その製品を必要としていた市場と、その製品を作る能力があり、且つ作りたい企業を結びつけたのですが、勿論そこには「言うは易し、成すは難し」があります。

まず第一に、その製品がイザ出来た時に本当に売れるのかどうかですが、当然これが最も大事です。次にそれを作ることができて、しかも作りたいという企業を見つけることです。

これ以上書くと話がどんどん横にずれて長くなるので別の機会に書きます…笑。

その時のうちの会社と今回の日本の会社と大きく違うのは製品の大きさ。うちの会社の製品は手のひらに乗ってしまうほど小さいもの。小さなメーカー1社で作れてしまいますが、今回の装置はそういう訳にはいきません。

複雑極まる制御技術、センサー技術、電気系統、メカ、ソフト、鋳造技術など、物を作るためのあらゆる技術がてんこ盛りです。

最も興味深いのは、その中小企業が複数の名だたる大企業のお客さんとなり、それらの製品群を束ねてしまっていることです。

制御関係はあのSIEMENS、センサー関係はキーエンス、他にもジョンソンコントロールズ、富士電機などと、あまり書くとその製品が何であるかバレてしまい、それは業務上許されないのでこの辺でやめておきます(笑)。

通訳の醍醐味 2 に続く…

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川崎英一郎

 

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カテゴリー: ドイツの暮らし, ビジネス
通訳という、素晴らしいお仕事の醍醐味 1」への2件のコメント
  1. […] でも今回、その内容の正しさを自ら証明するようなことが起こりましたので、今回追加でその4です。 既にいい年こいているせいか(笑)、さすがに中途採用のお誘いはありませんでしたが、それよりもっと嬉しいお話です。 その会社の製品を「今後ヨーロッパで宣伝して貰えないだろうか? 」という打診です。その製品はかなり優れものなのに、ヨーロッパではまだ未開拓。こんなにやりがいのあるお仕事はありません。 さすがに億の単位の金額となる装置だからか、最後の詰めにその会社の社長さんが日本からやって来ました。 長い期間の間、専門分野の違うスタッフが何人も日本から来ては去って交代したのですが、技術のバックグラウンドを持つ営業部長さんがプロジェクトリーダーとして最初から最後まで滞在しましたが、その人と社長さんに私の仕事の流儀が気に入られたようです。 日本のその会社の名はTECHNO。最初に来たチームのひとりが「通訳のブログ1」を読んで下さり気に入られ、宣伝のために是非会社名を明かして欲しいとリクエストされました。 今回の通訳の依頼元はTECHNOではなく、ドイツ側の購入元、つまりお客さんで、あるドイツ一流大企業ですが、そちらの会社名の方は㊙︎です。 TECHNOはその産業で日本を代表する優れ企業のひとつ。大手大企業の製品を取りまとめて設計し、ひとつのミニプラントに仕上げます。設計に特化した、山椒は小粒でピリリと辛い頭脳集約型集団です。 ちなみに私がTECHNOの人にミニプラントというと、「それは大袈裟ですよ」と言われましたが、決してそんなことはないと思います(詳しくはその1)。その装置のためにわざわざ新しい工場がひとつ用意されるのですから。 そのものズバリは書けないものの、それはアルミ合金の金型などの鋳造物を作る機械・装置です。自動車産業においてここしばらく、アルミ合金が次々と鉄に取って代わって車体を軽く、燃費を良くしてきました。 今までは鉄で出来ていたものが、次々とアルミ合金に変わりました。例えば車のエンジン。昔は鉄で出来ていましたが、今日のエンジンは見た目がきれいなアルミ合金で出来ています。TECHNOでは車のシリンダーヘッド(エンジンの上部)のような車の心臓部の一部を作る機械も作っています。 車産業は、信頼性の高い製品しか通用しないことで有名です。不良率をゼロにすることは事実上不可能でも、欲を言えば百万個に一個などという限りなくゼロに近いレベルが求められます。 その割には今日の車は電気・電子系統でしょっちゅう故障しますが、それでも命を運ぶ物なので、高い製品信頼性はとても重要です。 さて今回、依頼元と私の間に2つの仲介社・者が存在していました。元々の依頼主であるドイツのメーカーが見つけたドイツ系(?)の通訳・翻訳事務所では適任がいないようで、別な通訳・翻訳事務所に横依頼となり、そこでも派遣できる通訳がいないようで日本商工会議所を通じて私にお話が来ました。 最初の仲介社は大手なのか、毎日出勤証明書を出す義務があるとか、必ず安全靴を用意するとかなど、ちょっとうるさかったので、私の方でそんな面倒なことはなくしてしまえとひとひねり工夫しました。 安全靴に関しては、今回の私のお仕事でのその必要性は、飛行機は落ちるけど乗る、落ちるから乗らないのレベルなので、「安全靴無しでもし何か事故が起きた時はあくまでも自己責任」という自分で書いて用意した一筆で免れました。 ましてや私は超足汗っかき(=足臭・笑)。安全靴など履いた日には、蒸れて蒸れて大変です。蒸れて足が腐っちゃいそうです(笑)。そこで慣れた穴あきの靴を履いて行ったのですが、依頼元のドイツ企業が、「それならうちで穴開きの安全靴を探して支給してやる」とまで言ってくれましたが、そういうものは見つからないのか、最後は結局そのままうやむや...笑。 毎日の出勤証明書は、毎日毎日同じ時間なのでバカバカしく、一週間分を一枚にまとめてしまいました。そこに依頼元のサインが入るので、毎日ではなく週イチでも仲介社も文句を言えません。 […]

  2. 佐藤庸子 より:

    日本の優れた零細中小企業も、必死でこの不況の波を乗り切ろうとしてます。
    筆者の通訳を通して、少しでも残ってほしいと思います。
    確かにそうですね、東京都の大田区の、ボーイング社の翼
    広島の小企業の、バレーボールのボールづくりの世界シェアー、
    こういう見えない企業をずっとのこしていくことも、日本人の努めだと思っています。

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