ドイツの公衆電話、煙草の自販機は非常に壊れていることが多かった。まだ「西ドイツ」だった頃のこと。煙草が5マルクだった時。
「ただ取られ損だった」とヘビースモーカーのドイツ人女性がよく怒っていた。公衆電話に至っては、半年以上も壊れたままで「金だけ吸い込む機械」だったことすらある。よく問題にならないものだなあ、とおかしなところで感心した。日本ならNTTにブーイングの嵐だったろう。
その中にあって、ドイツで、比較的壊れていない機械に駅の「切符販売機」があった。犬の絵がついている、ボタンや自転車がついている押しボタンがあって、「車内に同時に持ち込めるもの」として別途、料金表示がされている。この日本との違いが面白かったのか、帰国後「世界!不思議発見!」という番組でこの機械が、紹介されていた。
紹介されていた駅はデュッセルドルフ駅。懐かしくて見入ってしまった。
「ほら、ドイツって面白いでしょう?犬や自転車まで車内に持ち込むことができて、料金までこんなふうに、ちゃんと別料金体系になっているんです。面白いドイツの切符販売機ですねー」とアナウンサーがルポしていた。
しかし、実はこの機械、ドイツで私が働いていた職場で私が輸入担当を任されていた「日本製」の機械なのだ。確か東京の目黒区の小さな工作メーカーの物。道理で壊れることがないわけだ。犬の絵や、ドイツ語の料金表示まで日本ですべてを製作し、すぐに駅に設置できるようになっていたように記憶する。
まさしく手取り足取り、顧客の場に立って物事をやり遂げる日本人の性格を現している。
それを「すごいですね!ドイツの切符販売機って」とやっているルポなのだから、テレビ局に「あれ、日本製なんですよ」といっそのこと電話してやろうかと思ったくらいである。
けれど、そんな思わぬ所での「日本製」はデュッセルドルフに住む日本人ですら、気づいている人は少なかったに違いない。
「世界!不思議発見!」なのだから、ドイツ製の機械と「不思議」のまま視聴者に見せておくべきなのだろう。
あれからもう四分の一世紀が過ぎた。
マルクがユーロになり、煙草の自販機も、ずいぶんと改良され、日本と同様に年齢制限確認まで、できるものとなったようだ。
駅の切符販売機は今も日本製の物なのか、ドイツ製の物なのか、知るすべはない。
けれど、今も駅の切符売り場で切符を買うたびに、ドイツの駅の純然たる、日本製品、「切符販売機」のことを思い出だして、しばしノスタルジーに浸る。
佐藤庸子
コメントを残す