乾いたシュトレン

イブである。

もうすでに買っているシュトレンは今年もドイツ直輸入である。大型スーパーまで、電車に乗って買いに行った物で、このスーパーでは、ドイツのお菓子類は大体手に入る。Milkaのチョコ、これは日本の普通のチョコサイズの三倍はある、ザーネ、これもドイツ製でサイズは日本の搾り出しの生クリームの二倍はある。懐かしい合成着色料のてんこ盛りみたいな熊のグミもある。眺めているだけで楽しい。

この店で、何年も前からシュトレンを買っている。今は日本のパン屋や洋菓子店でシュトレンを作っているが値段の高さや、その割りに、いまいちの味などで、直輸入の店で買うことに決めている。近所のパン屋で今日見た日本のシュトーレンは、3800円でふわふわの生地に包まれたクロワッサンのようなもの。

私がシュトレンが好きだ、ということを聞いて知っている学生時代の友は、パン作りの学校に通っていたが、手作りで送ってくれたシュトレンは、やはりクロワッサンのパイ生地で作ったもの。日本ではシュトレンはパイ生地から作ることを料理学校で教えているのだろうか。

どうでもいいことだが、日本の菓子店、パン屋が「シュトーレンあります」とトーと音引きで伸ばしているのも、気に食わない。

シュトレンはシュトレン。日本人にとって言いにくいオーウムラウトで音引きなしのままが正解なので、シュトーレンではない。私にとって、シュトーレンと伸ばすのは、もはやドイツのクリスマス菓子ではなく、まがい物以外の何物でもない。

日本人は、クリスマスのケーキはアメリカンな満艦飾が、やはり大人気だ。これはヨーロッパで、ついぞ見かけることがなかった。ろうそくのサンタやチョコの板に「メリークリスマス」と書いてある、デコデコしたもの。これが私は苦手だ。奥ゆかしさのかけらもない。一方シュトレンのこの見事なまでに、飾り気を一切廃した、いかにも職人のような無骨なケーキの見事さはどうだろう。山形の形、シュガーパウダーでほのかに飾るだけの装飾。

なのに、ナイフを入れると洋酒の香りが漂い、何ヶ月もかけて熟成させたドライフルーツのさまざまな色が現れる。これを薄く切り分けてワインと共に食す、これが大人のクリスマスというものだ、と私は信じて疑ってない。

ドイツ滞在中にこれに病みつきになり、買い占めてクリスマスが終わっても食べ続けていた。

今も同様。11月頃から売り始めるので、これをいくつも買って食べ続ける。残しておくのは一箱のみ。イヴの時にはだいたい一箱になってしまっているが、我慢して取っておくことが、なかなかできない。今年は幸い残ったままだ。

ドイツでは年が明けても、シュトレンは売っていて、クリスマスの飾りは3月頃まであったが日本では、25日でシュトレンも満艦飾ケーキも全て撤去され、しめ縄売り場になったりする。シュトレンが余っていそうな店に行って在庫があるでしょう、売って、と食い下がってねだってみたが、「25日で本社に送り、在庫はありません」とのつれない返事だった。

あまり物のケーキなど縁起でもない物を売ってくれ、なんて変な女だなあ、と怪訝そうに見られた。

ドイツでシュトレンを食べ続けた最後の冬を今も思い出す。12月頃から3月まで毎日、毎日私は、シュトレンを朝食代わりに食べていた。湾岸戦争最中だった。テレビはディスカッションばかりやっていて、ラジオも同じ。

フランクフルト在住のアメリカ軍人と結婚している日本女性は「アメリカに帰る。空港が戦闘機ばかりになってきた。真っ黒だ。

夫はもう歳、帰国が許されたから」と震える声で電話してきて、あっという間に本国へ帰ってしまった。

戦争って本当にあるんだなあ、とぼんやりした頭でシュトレンを食べていたことを思い出す。私はそもそも、戦争が始まったことすら知らなかった。飲み屋でピザパイを食べていて、「戦争が始まったよ、ほら!」と隣の若いドイツ人が新聞を投げてよこし、その一面の全抜きの見出しで私は戦争を知ったのだ。

湾岸戦争は長くは続かなかった、それが唯一の救いだろう。私は戦争の終わるまでシュトレンを食べ続けていた。3月が確か終戦だったと思う。その頃の、シュトレンは、もう香りも甘みもない、かさついた、ただのパンと化しており、もともと硬いシュトレンだが、化石のようになってもはや食べ物とは言える代物ではなかった。

今年も、明日、シュトレンにナイフを入れる。もう戦争のニュースを聞きながらシュトレンを食すことはない。

けれど、今頃の季節になると、殺伐とした気持ちで、乾いた味も素っ気もない、シュトレンを食べ続けていた時のことが、まざまざと思い出される。

佐藤庸子

日本人のための、ドイツの生活応援サイト

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カテゴリー: ドイツと日本の違い, ドイツの暮らし

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